大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 平成11年(く)8号 決定

少年 D・S(昭和59.5.19生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、要するに、少年は、原決定の罪となるべき事実第六の原動機付自転車の無免許運転はしていないから、原決定には重大な事実誤認があり、また、少年は、原裁判所での審判の際、自分が反省して考えていたことを十分に説明できなかったが、窃盗の被害者には新聞配達のアルバイトをして被害弁償をし、謝罪しようと思っており、今後父親にも心配を掛けないでまじめに学校にも行き、悪い友達からも誘われないようにして、絶対に非行をせず、身体に障害がある弟の世話や家事の手伝いをして父親を助けようと思っており、少年院に行かなくても更生できるので、共犯のAと同じように在宅の処分にしてほしいから、少年を初等少年院に送致した家庭裁判所の決定の取消しを求める、というのである。

二  当裁判所の判断

1  事実誤認の主張について

関係記録によれば、少年が、Aと共謀の上、平成10年12月16日午後9時55分ころ、広島市○○区○○×丁目××番××号のマンシヨン駐輪場において、原動機付自転車1台を盗んで、少年とAが二人乗りをして運転していた際、同日午後10時15分ころ、同区○□×丁目××番×号有限会社○○前の交差点でB運転の普通乗用自動車と衝突したことが認められる。

そして、Bは、二人乗りの原動機付自転車が一旦停止の標識があるのに停止せずに交差点に侵入してきたため自車と衝突したこと、その際、運転していた者は、ヘルメットを被っておらず、原動機付自転車が衝突して転倒した時、自動車の反対側に少し飛ばされた後、東方へ走って逃げたこと、後部に乗っていた男はヘルメットを被っており、原動機付自転車の下に左足が挟まるような形で倒れ、立ち上がろうとしていたので、その男の腕を掴んだことを供述しており、少年はヘルメットを被っておらず、Aはヘルメットを被っていたこと、衝突時にAが倒れた原動機付自転車の下敷きになっていたことなどの事故時の状況は、少年及びAの各供述とも一致しているので、右のBの供述は信用することができる。また、Aは、一貫して事故当時原動機付自転車を運転していたのは少年であると供述している。したがって、右のB及びAの各供述によれば、右の事故当時、原動機付自転車を運転していたのは少年であることは間違いないと認められる。

この点について、少年は、事故後帰宅途中に警察官に発見されて現場に連れ戻された際、当初は、運転していたことを否認し、再度、正直に話すように追及されて、自己が運転していたことを認め、その後の警察官の取調べでは、再び、運転していたことを否認し、家庭裁判所に送致された後は、運転していたことを争わなかったもので、その供述は転々と変わっている。少年のこのように変転している供述のうち、自己が運転していなかったというのが真実であると思われる事情は見当らず、前記のB及びAの各供述と対比すると、少年の供述は信用することができない。したがって、原決定には事実誤認はない。

2  処分の著しい不当の主張について

本件のうち、窃盗、建造物侵入未遂及び道路交通法違反の非行は、少年が、(一)平成10年5月28日から同年7月3日までの間、12回にわたり(うち2回はA及びCと共謀の上、10回はAと共謀の上)、広島市内のマンション及びビル内の居宅、事務所及び店舗等において、現金合計約36万3420円、財布、ペンダントなど合計約94点(時価合計約170万3870円相当)を窃取し、(二)Aと共謀の上、同年7月2日、窃盗の目的で、広島市○○区○□の株式会社○○工業□□支店に、新聞受けから手を差し入れて出入口の錠を開けて侵入しようとしたが、警報機が鳴ったため逃走してその目的を遂げず、(三)Aと共謀の上、同年12月16日、同市○○区○○のマンション駐輪場において、原動機付自転車1台(時価約6万円相当)を窃取し、(四)公安委員会の運転免許を受けないで、同日、同市○○区○□の道路において、原動機付自転車を運転した、という事案である。

原決定は、右各非行事実のほかに、罪となるべき事実の欄に、第四として、「少年は、平成10年5月ころから連続して窃盗事件を敢行したことから補導されたが、反省することなく、深夜外出、無断外泊を繰り返し、同年9月7日からは家出をしていたもので、保護者の正当な監督に服さない性癖を有し、正当の理由がなく家庭に寄り付かず、このまま放置すればその性格、環境に照らして将来再び窃盗等の罪を犯すおそれがある」とのぐ犯事実をも認定しているところ、右は、前記(一)の各窃盗及び(二)の建造物侵入未遂の各犯罪事実後の事実をぐ犯事由とするものであるが、ぐ犯性の内容となっている犯罪は右各犯罪事実と同種のものであり、右のぐ犯性は、前記(三)の窃盗及びこれに付随する(四)の道路交通法違反の犯罪事実として現実化したものと認められるので、右の原決定が第四として判示するぐ犯事実は右の(三)及び(四)の各犯罪事実に吸収され、独立の審判の対象ではなくなったものというべきである。したがって、原決定がこれを独立の審判の対象に当たる非行事実として認定判示したのは法令に違反しているものといわざるを得ないが、右の法令違反は決定に影響を及ぼすものとはいえない。

ところで、少年は、5歳のころ母親が家出したため、弟2人とともに父親により育てられてきたが、弟Dが事故により身体に障害を負い、父親が毎日の生活に追われたため、少年は、親の愛情を十分に受けることができずに愛情欲求不満を抱えたまま生育し、平成9年4月に中学校に入学し、1年生の時はまじめに登校して生活していたが、家庭で情緒的に満たされないため、次第に学校での勉強に身が入らず、成績は下がって、クラスにも溶け込めず、学校に適応できなくなり、1年生の終わりころから不良な友人らと夜遊びをし、2年生になると、不登校も始まり、平成10年3月ころから、遊ぶ金欲しさに右の友人らと侵入窃盗をするようになり、次々と本件各窃盗、建造物侵入未遂及び無免許運転の各非行を犯したものである。

少年の性格ないし行動傾向をみると、少年は、情緒的な不安定さもあって、投げやりでその場限りの行動に出やすく、窃盗などの非行や盗んだ金で遊ぶことは格好の憂さ晴らしになっており、罪の意識が乏しく、父親から叱責されるなどしても、これを聞き入れずに右各非行や夜遊びなどの問題行動を繰り返してきたもので、その窃盗は習癖化の傾向が窺われる。

このような少年の多数回にわたる非行の状況、中学校生活にも適応せず、父親の監護にも従わない状況にあること及び少年の性格、行動傾向ないし交遊状況等を考えると、少年に保護処分歴がなく、少年が抗告申立書等において述べる反省の気持ちや家庭の事情などを考慮しても、もはや試験観察その他在宅処分によっては少年の更生を図ることはできないと考えられ、この際、少年を少年院に収容して、保護統制された環境の中で、専門的な働きかけにより規範意識を培い、性格及び行動傾向を改善し、内面的な成長を図る必要がある。なお、Aは、非行性及び要保護性の点で少年と異なるのであるから、Aと処分が異なっても、少年に対する処分が誤っているとはいえない。

したがって、これと同旨の判断に基づき少年を初等少年院に送致した原決定の判断は相当であって、処分の著しい不当はない。

3  よって、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項後段、少年審判規則50条によりこれを棄却し、主文のとおり決定することとする。

(裁判長裁判官 福嶋登 裁判官 松野勉 大善文男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例